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“RINGO”デザイナーに聞く、愛されるブランドの育てかた【スペシャルインタビュー】

昨年12月、カスタムフォント「RINGO TYPE BOLD」が登場しました。
株式会社BAKE(以下BAKE)が運営する、焼きたてカスタードアップルパイ専門店 RINGOのロゴに基づき制作された、ブランド専用の欧文書体です。
フォントワークス書体デザイナー中村勇弥が企画・制作しました。

RINGOのアップルパイとRINGO TYPE BOLD。

PRESS BUTTER SANDBAKE CHEESE TART、2023年登場のしろいし洋菓子店など、数々の人気お菓子ブランドを輩出するBAKEは、とびきりのお菓子はもちろん、高いブランド力・デザイン性でファンを獲得しています。

「おいしさの次にデザインが大事」というBAKEで活躍するデザイナーさんは、どんなふうにブランディングに取り組んでいるのでしょうか。
今回、Creative Directer 河西宏尚さん、RINGOクリエイティブチーム小林香奈さん林果穂さんに、ブランドの育てかたについて伺いました!

魅力的なBAKEブランドの数々。

[RINGO TYPE BOLD紹介編はこちら]

お話を伺ったBAKE所属デザイナー3名。左から河西宏尚さん、林果穂さん、小林香奈さん。

〈BAKEデザイナー プロフィール〉
河西宏尚さん

株式会社BAKE Creative Directer
一般大学を卒業後、アルバイトで出版社に勤務。その後2社のデザイン事務所を経ていまに至る。かつてRINGOのデザインも担当。BAKE歴は8年ほど。

小林香奈さん
株式会社BAKE RINGOクリエイティブチーム マネージャー
東京工芸大学芸術学部卒業。新卒で制作会社に7年勤務ののち、インハウスデザイナーを経験。その後BAKEへ入社。BAKE歴は1年ながら、RINGOのブランド全体をディレクションする。

林果穂さん
株式会社BAKE RINGOクリエイティブチーム チーフ
武蔵野美術大学卒業。新卒でデザイン事務所に6年勤務ののち、BAKE入社。RINGOブランドのプロモーションデザインを担当する。


聞き手・文/中村勇弥
写真/カワベ ミサキ

ブランディングは「ひと」づくり

来る者拒まず、けっして過度にアピールしない。それでいて、内面から滲み出るような美しい佇まいから、ひとを惹きつけてやまない――そんなブランドがあります。
焼きたてカスタードアップルパイ専門店RINGOです。

天神地下街で惹かれてから、僕のなかでRINGOはだんだんそんな「ひと」になっていきました。

ブランディングはひとつの人格をつくること。
これは、お話を聞かせていただいたうちのひとり、林さんが教えてくれたことでした。
すてきな「ひと」に惹かれるように、ブランドの魅力をお客さまが感じとり、長く愛されるブランドに育っていく。

RINGOデザイナーだったこともあるBAKE Creative Directer 河西さんも、「BAKEにはデザインで勝ってきた、売上をつくってきた歴史がある」と仰います。
そんな、愛されるデザインとブランドは、どう育てられているのでしょうか?

福岡・天神地下街店。RINGOは工房一体型の店舗で焼きたてを提供する。

“隠れ足し算”で生み出す、RINGOのシンプルな世界観

「とっておきを、みんなのものへ。」
RINGOの世界観はこのコンセプトに基づいています。
ブランド全体をディレクションする小林さんによると、
「焼きたてのおいしいアップルパイが気軽に購入できる身近さと、素材や味へのこだわりをスムーズに伝えられるように、ブランドの世界観はシンプルかつ温かみのある上質なトーンにしています」だそう。

RINGO クリエイティブチーム 小林さん

たしかに一目瞭然で、RINGOの基本はいわゆる「引き算のデザイン」。
ロゴをはじめ、パッケージや店舗デザインにも、思わず吸い込まれるような静かで洗練された空気が行き届きます。

ですが、さらにお話を伺っていくと驚きの裏話が。
それは、「引き算」の背後にたくさんの「足し算」が隠れているということです。

「アップルパイが圧倒的な主役として存在してくれるので、デコラティブなデザインにしなくても画ができちゃうんです。でも、商品写真を撮るときから、おいしさを表現する工夫はかなりしています。クリームの立体感のディティールをつくりこんだり、飾りのリンゴの陰影にこだわったり、それから切り口の角度にも。商品のチャームポイントやシズル感を100%表現するために、小さいところには無数の〈足し算〉を仕込んでいます」

RINGOの佇まいの上質さ。

しかも、撮影用の商品を何時にいくつつくってほしいと依頼すると、社内のプロフェッショナルが毎回全力で応えてくれるそうで、見せかたへのこだわりがうかがえます。
細部まで行き届く〈隠れ足し算〉。それがRINGO らしさを支えていました。

ところでRINGOらしさには、当然、時代とともに変化する部分も。けれど「本当の芯を見失わないように育てていくのが大切」と小林さん。

「理想はもちろんブランドがどの角度から見てもブレず、矛盾もないことですが、実際は世のなかの流れに合わせてすこしずつ変化していきます。それでも歪みが出ないように、摩耗しないように、丁寧に組み立てていく。そうすることで長く愛されるデザインやブランドになっていくのかな、と感じます。とくにRINGOはBAKEのなかでもたくさんのファンの方々に愛していただいているブランドなので、BAKEに入ってやっと1年が経ったところですが、責任重大です!」

多少のブレを、ものともしないブランドづくり

Creative Directer 河西さんの考えかたにも、愛されるブランディングへのヒントがありました。

河西さんは、デザイナーがいちばん熱量の高い状態でブランドづくりに向き合えるようにと意識されているそうです。
だからこそ、担当デザイナーはみんな「我が子のようにブランドと向き合える」(小林さん)のだとか。

「そうしたいというより、そうありたいと思ってる部分があって」と河西さん。

BAKE Creative Directer 河西さん

「デザイナーが社内にいることで引っ張れる部分って多いなと思ってるんです。お菓子をこういう見た目にしたいとか、こういう店頭での見えかたにしたいとか、デザイナーが他の部署のお仕事をすこしだけ〈侵略〉して、いろいろコメントさせてもらうことで、いいブランドになると思っています」

新ブランドの商品開発なら、試食の段階から必ずデザイナーさんが同席するそうです。味と素材が固まったあとは、お菓子そのものの形状や見え方についても必ず開発サイドから相談があるというから驚きです。
「クリエイティブ部以外の部署のみなさんもデザイナーのような目線をもっていて、本当にすごいな! と驚く日々です」(小林さん)

デザインの力をBAKE全体が信じていることが伝わってきて、「おいしさの次にデザインが大事」という社風の重みが実感を伴って増してきます。

デザイナーの想いも大切にする風土が、RINGO TYPE BOLDの実現につながった。

では、BAKEでのデザイン、ブランドづくりに求められるものとは何なのでしょうか。
河西さんいわく、それは強い世界観だそうです。

「ローンチ時の初速のインパクト(集客)と、多少一貫性がブレても耐久性がある〈強い世界観〉をつくるのが、BAKEで求められるブランドづくりです。なので、その時代その時代で愛されるRINGOであればいいとも思っていて。時代ごとにデザイナーや関係者が〈こういうのがRINGOらしいよね〉を共有できていたらいいなと思います」

煩雑な景色のなかでひときわ目立つプロモーションデザイン

小林さんから「林さんが入って、プロモーション面がものすごくパワーアップしました!」と太鼓判を押されている林さんは、毎月のプロモーションで新フレーバーの期待感を表現したいのだとか。

RINGO クリエイティブチーム 林さん

「RINGOは毎月新しいフレーバーが出るのですが、季節が変わり、RINGOの季節フレーバーも変わるワクワク感と新鮮味をビジュアルでつくりたいと思っていて。毎日店舗の前を通りかかるお客さまや、SNSで見てくださっている方々に、つねに『おいしそう!』『食べてみたい!』と思ってもらえるようにデザインしています」

洗練されたRINGOのインスタグラム

RINGOのデザイントーンができている状態から加入した林さん。意識しているのは発想の幅広さです。

「RINGOが積み上げてきたエレメントや質感を大切にしながら、どこまで幅広く考えられるかを意識しています。毎年秋に出す人気のお芋フレーバーなど、定番のプロモーションでも、前年から変わったところを押し出したり。他のお菓子屋さんではできないこと、RINGOが提供できる価値って何だろう? と自問自答の日々です」

RINGO TYPE BOLDをいち早く使っていただいたプロモーションビジュアル
福袋BOXには、RINGO TYPE BOLDをメインに使用したスペシャルなカードが同梱された

「ブランドのデザインは、トーンが一貫していて、軸となるコンセプトはブレず、美しくて、かつ素敵な印象であることが必要です。そのブランドからの新しいお知らせ=プロモーションは、煩雑な景色のなかでひときわ目立つ、シンプルなものでないと伝わらないと考えています」

情報も、おいしいものも溢れている現代。要素を盛るのではなくシンプルにすることで目を引き、伝わるものになる。
穏やかで、喋りすぎず、そのうえ心惹かれるものがある、RINGOという「ひと」の顔=プロモーションビジュアルの、すてきな後ろ姿が見えました。

「広告をしなくてもパッケージにこだわりがなくても、おいしければ売れたり、話題になったりする時代です。でも、そういうものがたくさんあるなかで長く愛してもらうために丁寧に伝えたり、こだわってパッケージを作ったりしようと考えるようにしています」

貴重なお話をありがとうございました!

RINGOとRINGO TYPE BOLD

完成したRINGO TYPE BOLDは、2024年12月から店頭ビジュアルなどで活躍中です。

年末年始にかけての店頭ポスタービジュアル
インスタグラム投稿

今後も続々活躍の機会があるとのこと。ぜひ注目してみてください!

改めて、RINGO TYPE BOLDはBAKEのみなさんと一緒だったからこそ、個性抜群のブランド書体として誕生できたのだと実感しています。
ありふれているはずの文字に、とっておきの〈RINGOらしさ〉が詰めこまれています。それは究極の隠れ足し算かもしれません。
RINGO TYPE BOLDが、細部までデザインが行き届くRINGOブランドに、大いに貢献していくことを願っています!

[RINGO TYPE BOLD紹介編はこちら]

[THE BAKE MAGAZINEで公開中! 対談記事はこちら]


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