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【クロスインタビュー】小林 章×ヨアヒム・ミュラー=ランセイ「国境を超えて書体をデザインする」

今年9月、フォントワークス初の欧文書体Yo Oneがリリースされました。このたび、Yo Oneをデザインしたヨアヒム・ミュラー゠ランセイと、スペシャルゲストを迎えてのインタビューが実現。ゲストはMonotypeで活躍するクリエイティブ・タイプディレクター、小林章さんです。

さまざまな経験を経て、国際的なフィールドで欧文書体の開発に取り組む二人に、それぞれのお仕事を紹介しながら、書体デザイナーとしてのあゆみをうかがっていきます。

小林 章[Monotype]
欧文書体の国際コンペティションで2度のグランプリを獲得。2001年よりドイツ在住。有名な書体デザイナーであるヘルマン·ツァップ氏やアドリアン·フルティガー氏との共同での書体開発のほか、日本語書体たづがね角ゴシック、Shorai Sansのディレクションを担当した。欧米、アジアを中心に講演やワークショップを行うほか、世界的なコンテストの審査員も務める。2022年にType Directors ClubのTDCメダルを受賞。

ヨアヒム・ミュラー゠ランセイ[フォントワークス]
ドイツ出身。日本を含める各国のタイポグラフィコンペティションで優勝するなど高い評価を受ける。海外複数社の情報デザインとVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)を担当。2018年にはソウルのフォントメーカーYOON Designの欧文のデザインディレクターとして活躍。2020年から、フォントワークス社に加わり、現職の欧文書体の書体ディレクターに就任。


二人の出会い:異なる文化圏を横断する

— ヨアヒムさんと小林さんは25年来の友人だそうですね。はじめはヨアヒムさんが日本に来ていたとき、共通の知人を介して知り合いになったとか。

小林 ヨアヒムさんが2度目に来日されたときですね。

ヨアヒム 私が初めて日本に来たとき——彼と会う1年前ですが、そのときは日本語の集中講座を取っていたんです。当時住んでいたカリフォルニアでは、人々が気軽に会話を楽しんでいて、カジュアルな出会いがありました。一方、日本の皆さんはシャイというか、中立的で、出会いと呼べるものは基本的にありませんでした。
 だから最初の旅行では、大きな泡の中に一人でいるような孤独感を感じていましたね。毎晩、かなり長い日記を書いて、それをまとめて小冊子を作りました。50冊くらいコピーして友人や日本で会った人たちに渡したんだけど、アキラ(小林さん)はそれを持ってるよね。

小林 初めて会った時にもらいました。スキャンしてあって、今も見ることができますよ。

— そもそもヨアヒムさんが日本に行ってみようと思ったきっかけは、何かあったのですか?

ヨアヒム 1993年に「国際タイプフェイスコンテスト・モリサワ賞」の欧文部門で金賞を受賞したのがきっかけですね。この受賞は書体デザインを続ける励みになったし、「私のデザインを気に入ってくれたのはどんな人たちなんだろう?」と、日本で暮らす人たちに会ってみたいと思いました。
 実際に初めて訪れて、日本の友人を作るためには、まず誰かに紹介してもらった方がいいと感じました。翌年の1998年、私は友人たちに日本に知り合いがいるかどうかを尋ねて回って、そこに小林さんの名前が上がったんです。紹介してくれたのは、共通の知人であるAdobeのリネア・ルンドクイスト(Linnea Lundquist)さん。当時、私はAdobeのために3つのフォントを完成させたところで、リネアさんは私のテクニカルコーチと呼べる存在です。アキラもその頃、Adobeのフォントを作っていたよね。

小林 そう、当時作っていたのはCalciteというフォントです。

ヨアヒム 小林さんと私はとても気が合って、彼もまた欧文書体やカリグラフィーに興味を持つ日本の友人を私に紹介してくれました。

— 小林さんはLinotype(*1)に入社する前、フリーランスで欧文書体を制作していた頃ですよね。欧文書体については、それ以前に海外で学ばれていたのですか?

小林 そうですね。はじめは写研に勤めて、その後1989年から1990年にかけてイギリスで勉強していました。帰国後にタイプバンクで欧文書体の開発に取り組んでから独立し、Linotypeに入ったのは2001年です。

— 初めて会ったとき、お互いに海外で感じた文化の違いやカルチャーショックの話題で盛り上がったと聞いています。

小林 さっきの小冊子をもらったときに面白いなと思ったのが、ヨアヒムさんは、日頃何げなく見ているものから違いを見つけるのがうまいんですよ。
 私も、イギリスで英会話学校に通いながらタイポグラフィの勉強をしていました。それまで日本から一歩も出たことがなかった私が、ロンドンで住んでいる間に体験したこと、カルチャーショックとまではいかないけど、「あ、こんなことが違うんだ」というギャップみたいなものを日々感じていたので、すごく共感できたんです。

ヨアヒム 確かに、ショックよりもギャップの方が適切ですね。異なる文化や環境があって、その間に「gap(隔たり)」があるという感じです。

小林 例えば、日本の学校だと先生に質問があるときに「先生!」って言いますよね。その感覚で、英会話学校で質問したいとき「Teacher!」って声をかけたんです。そうしたら「私はティーチャーじゃない。私の名前はジェーン。ジェーンと呼びなさい」と言われて、そんな初歩的なところからハッとすることがありました。肩書きで呼ぶのは、とても冷たい感じに受け止められるんです。
 他にも、日本のような丁寧で控えめな頼み方をすると伝わらないことがあるから、単刀直入に質問することを心がけたりとか。

ヨアヒム 私は22年間アメリカで暮らしていましたが、アメリカは異なる国々から多くの人が集まっているので、できるだけ直接的で速く、簡潔なコミュニケーションが求められます。ローコンテクストな文化と言えるかもしれません。それに対して、日本やヨーロッパ、古くから共通の価値観を持つところではハイコンテクストな文化が強いですね。

*1 Linotype GmbHはドイツのフォントベンダー。後にMonotype Imaging傘下に入り、2013年にMonotype GmbHに社名変更。

ヨアヒムさんの書体デザイン:Shuriken Boy(1996)

— では、二人が作られてきた書体をいくつか紹介しながら、書体デザインへの取り組み方について聞いていきたいと思います。まずはヨアヒムさんから。ユニークな書体がたくさんありますが、一つ目は1996年にリリースされたShuriken Boyを取り上げたいです。

Shriken boy

ヨアヒム 当時、カリフォルニアの友人のためにロゴのデザインをしていたんです。会社の3つのコンセプトを表現するために、「3」に基づいたデザインにしてほしいと頼まれたので、3つの点、3つの円、3本の線、三角形といった形から考えはじめました。

 私が好きな手法の一つに、図(figure)と地(ground)の要素が絡み合ったり交わったりする見せ方があります。それで三角形を別の三角形の中に組み込んでみました。それだけではつまらない、ありがちな形です。でも、もう少し捻じ曲げてみたらどうだろう。形に回転しているような動きが生まれます。クライアントは最終的にそれを使用しませんでしたが、私は格好いい形だと思いました。
 さらに、これもアートスクールでよくある演習ですが、周りの環境の中からランダムな形を見つけて写真を撮り、その中からアルファベットの形を探し出すという課題があります。「これはAに見えるな」みたいにね。そこで、これらの形をたくさん組み合わせて遊び(play)、すべてのスケッチを小さな紙片に切り取って、テーブルに並べてみました。それらを特徴ごとに整理してテープで貼り付け、同じものをIllustrator上で書き起こしました。

Shuriken Boyの制作過程。たくさんのスケッチを制作して形を探り出し、それらを分類・整理しながらIllustratorでパスに起こしていった

ヨアヒム 結果として、これらは2つのスタイルになりました。オープン・スタイルとクローズド・スタイルですね。それぞれ「Boy」「Girl」と呼んでいます。さまざまな事情でリリースされたのは「Boy」だけになってしまいましたが。

— 30周年ロゴのインタビューでも紹介しましたが、ヨアヒムさんのデザイン制作は、プロセスがとても魅力的です。このBoyとGirlのイラストもご自身で描かれたんですね。

ヨアヒム そうです。1990年代初頭はレイブやテクノなどが流行していた時代でしたから、こういうエレクトロニックな感じが合っていましたね。かつ、コンピューター・スタイルとも似ています。1970年頃、スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』のような宇宙や月面着陸に憧れた時代、画面の解像度が今よりも粗かった頃のタイプフェイス。対角線を30度と60度に統一して、カーブの大きさにもルールを設けてグリッドに沿うようにデザインしています。
 私はこれをさまざまなタイプファウンドリーに送り、しばらくしてからAdobeが興味を持ってくれました。今でもAdobe Fontsで利用することができますよ。 

— ちなみにShuriken Boyという名前の理由は?

ヨアヒム それは「*(アスタリスク)」が由来になっています。Shuriken Boyのアスタリスクには小さな穴が空いていて、忍者の手裏剣のように見えるでしょう。でも、角が丸まっていて鋭くない。攻撃的じゃなくて、子どもが遊ぶおもちゃのプラスチックの星みたいな感じです。それで「『Shuriken』って名前はどうだろう?」と日系アメリカ人の友人に聞いてみたら、「今の流行りに合わせるなら、日本語と英語を組み合わせるのがいいね」と言われてShuriken Boyという名前になりました。

ヨアヒムさんの書体デザイン:AG Choijeongho(2017)

— ヨアヒムさんはフォントワークスで働く以前、韓国でも活動されていました。もう一つは、そのときに手がけたAG Choijeonghoの欧文を紹介したいです。ハングル書体に合わせて欧文をデザインされていますね。

AG Choijeongho

ヨアヒム AG ChoijeonghoはソウルのAG Typography Instituteによって提供されています。この研究所を運営するAhn Graphics代表のアン・サンス(Ahn Sang-soo)さんは現代の韓国で最もよく知られている書体デザイナーです。また、彼は私が2年間講師をしていたPaTI(Paju Typography Institute)のディレクターでもあります。講師の仕事をする間、私は彼のスタジオのための書体デザインにも取り組んでいました。 

 書体の名前にもあるチェ・ジョンホ(Choi Jung-ho)は、戦後のハングル書体のデザインにおいて最も重要な書体デザイナーです。アンさんはチェ・ジョンホ氏から未完成のデザインを受け継いでいました。彼らのチームは、残された古いスケッチから書体のデジタル化を進めていて、ハングルのデザインに合った欧文の文字セットを作りたいと考えていました。

— それをヨアヒムさんがデザインしたのですね。

ヨアヒム しかし、ハングルのパーツを使ってラテン文字を作るのはよくありません。ローマン体は平たいペン先のストロークでできています。彼らが望んでいたのは、ローマン体でありながら、ハングルと共通した印象や文字の流れを感じられるものです。
 私たちはAdobe GaramondやSabonなどチームが好ましいと思うさまざまな書体を集めました。そして、元となるハングルを研究して、セリフ(*2)やストロークに反映できる形を見つけ出していきました。

— 単純に形を似せるのではなく、異なる文化を寄り添わせていく、ということなのかなと想像します。

AG Choijeonghoのために考えられたディテールのスケッチ。ローマン体をベースとしながら、わずかに筆で書いたようなニュアンスや、密度感の調整を加えていく
Adobe GaramondとSabon、AG Choijeonghoのセリフを比較した図。AG Choijeongho(中央)のセリフはシャープな角と丸みを帯びた角が交互に配置され、流れや動きが感じられる

ヨアヒム それを表現するために考え出したのは、ごくわずかなディテールです。まず、ハングルに合った新しいセリフを開発しました。
 Adobe Garamondのセリフは柔らかく、Sabonは完全に角張っていますね。AG Choijeonghoのセリフは、シャープな角と丸みのある角を交互に持っています。これによって、ほんの少し筆で書かれたような動きが生まれます。さまざまなディテールに、こうしたわずかな筆の印象を加えていきました。
 また、チェ氏の書体にはストロークの間に小さな隙間が見られます。それに倣って、いくつかの文字にはステンシルのように隙間を設けました。例えば「$(ドル)」の記号。通常、通過記号はストロークが多く暗くなりがちなので、こうすると明るくなります。さらに「i」や「?」についているドットにもほんの少し手を加えています。ケーキの上に乗ったクリームみたいにね。 

— わずかなニュアンスが、調和や遊び心を生み出しているんですね。他にもヨアヒムさんの書体は、フォントワークス LETSで使えるYo Oneのほか、mojimo-retro futureにもOwlphabet、Cumbersomeなど楽しい書体が収録されています。新たな欧文書体も現在開発中とのこと。ぜひ注目してほしいです。

*2 セリフとは、ローマン体のストロークの先端にある飾りのこと。この飾りがついていない書体をサンセリフと呼ぶ。

小林さんの書体デザイン:Clifford(1999)

— 次は小林さんがデザインした書体についてうかがいます。ぜひ聞いてみたいと思っていた一つはCliffordです。1998年にはU&lc Type Design Competitionで最優秀賞を受賞されていますね。

Clifford

小林 友人というか師匠と言うべき人に、嘉瑞工房の高岡重蔵さんがいます。タイポグラファーとして日本はもちろん世界でも知られている方ですが、高岡さんにコンテストに応募する前の書体を見せていたんです。最優秀賞をいただいた後、報告したら「あ、そう」っておっしゃるんですよ。全然驚かなくて。なぜなのか尋ねたら、「これで受賞しなかったら、そっちの方が驚く」と言ってくれました。

 普通に読めるんだけど新しい書体というのは、ある意味で矛盾したことを実現しなければなりません。読みやすい書体というのは見慣れた書体でもあるはずで、誰もが見たことがあるからこそAはA、BはBだと読めるわけですね。ちゃんとオリジナリティがあって誰の目にも新しい、でも誰にとっても読みやすい書体。その矛盾する2つのことを実現できたのがCliffordだと思います。

— 金属活字のような表情の美しい書体です。こうしたオーソドックスな書体で高く評価されたというのは、本当に素晴らしいことだと思います。

小林 この書体にはさらに特徴があって、3つのサイズに合わせて作り分けているんですよ。
 当時は90年代初頭、デジタル書体が出はじめた頃です。それまで金属活字で美しい欧文書体をたくさん見てきましたが、それがデジタル書体になったときに、すごく弱くなってしまうように感じて残念に思っていたんですね。なんでだろうと考えてみると、活字にインキをつけて紙に印刷されたときの印象を残すのではなくて、原字そのままをトレースしているからではないかと考えました。
 活字は、実際に印刷される大きさでしか作ることができません。一つのデザインを縮小拡大しているわけではないんです。大きいサイズの書体は少し凝った細工をしているけれども、小さいサイズで使う書体は形を単純化している。これと同じことをデジタル書体でやりたかったんです。

Clifford の3つのバリエーション。それぞれ18ポイント以上(Eighteen)、9ポイント前後(Nine)、6ポイント前後(Six)で使われることを想定している。見出しなどで見栄えがする繊細なディテールを持ったEighteen に対して、6ポイントは脚注で使われるくらいの大きさのため、潰れそうなディテールは単純化されている

小林さんの書体デザイン:Linotypeの名作書体たち(2001〜)

ヨアヒム その頃、私たちはお互いのデザインをよく見せ合っていました。小林さんがLinotypeの国際デザインコンテスト(2000年)に応募して、本文書体部門で1位になったConradのデザインもよく覚えています。それからLinotypeの書体デザイナーになったんだよね。私も彼からいろいろなコメントをもらって、たくさん助けてもらいました。

— 出会ってから密にコミュニケーションを取っていたんですね。小林さんはLinotypeに入社されてから、ヘルマン・ツァップ(Hermann Zapf)氏やアドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)氏と一緒に、名作書体のリデザインなどに取り組まれていました。その話を少しうかがいたいです。

小林 お二人とも私が書体デザインをはじめた頃からの憧れの存在で、雲の上の人だと思っていたのですが、実際に話してみるととてもオープンマインドで、新しいアイデアも積極的に取り入れてくれるし、私からの提案にも快く耳を傾けてくれました。

— 実際の制作はどのように進めていったのですか?

小林 二人ともコンピューターは使わないので、私がデジタルで制作してみて、側で見てもらって「もっとこうしよう」と指示をもらいながら制作していきました。
 例えばZapfino Extra。ツァップさんが1998年に制作したZapfino(*3)という書体を新しくする仕事を一緒にやったのですが、最初は彼が元のZapfinoからより良くしたい部分をスケッチに描いて、作業を見ながら細かく指示してくれました。後半になってくると、どこをどう直したいのか、ツァップさんの気持ちがだんだん分かるようになってくる。すると「アキラ、この文字を良くしてくれ」というふうに言われて、「こうですね」と見せてOKをもらう。そんなやりとりが増えていきました。フルティガーさんとも同じようなやり取りをしていきましたね。

ヘルマン・ツァップ氏と共に取り組んだ仕事。Zapfino Extraの他にも、Optimaを元にしたOptima Novaや、Michelangelo を改刻したPalatino Nova Titling(Paratino Novaファミリーに見出し用書体として組み込まれている)など、世界中で知られたツァップ氏の書体をリデザインした
2002年頃、Linotype社で共に仕事に取り組むツァップさん(左)と小林さん(右)

— 小林さんの中に、ツァップさんやフルティガーさんの考え方が浸透してくるような感じでしょうか。

小林 私は勝手にそう思っているんですけどね。

— それは大きな経験ですね。書体の改良は、現代に合わせて使いやすいようにアップデートされたということですか?

小林 それもありますが、デジタル化以前の書体は、自動鋳造植字機で活字を鋳込んだりするために、デザインにも技術的な制約がありました。例えばFrutigerは、 標準の太さであるRomanと太字のBoldを同じ幅に収める必要があったため、Boldの小文字の「c」などが左右から潰されたような、窮屈な形になっていました。こうした制約がデジタル化しても残ってしまっています。デジタルフォントにそのような制限はありませんから、より良いデザインにできるはずです。
 ツァップさんの書体もフルティガーさんの書体も、世界中で定番とされるいい書体です。その書体を、作った本人たちと一緒に、さらに良くしていく仕事をしてきました。その結果の一つが、フルティガーさんと取り組んだNeue Frutigerです。

Neue Frutiger

— 小林さんはその後もAkkoやBetweenのデザイン、Monotypeの日本語書体たづがね角ゴシックとShorai Sansのディレクションをされていました。今はどのような仕事に取り組んでいますか?

小林 主にコーポレートフォントに携わっています。最近では、三井物産株式会社のプロジェクトを担当しました。企業やブランドが、その姿勢や思いを届けたいというときに、そのブランドが発する言葉はどんな形をしているべきか。それを聞き取って要望を具体的に把握し書体を開発しています。とてもやりがいのある仕事です。

*3 Zapfinoは現在macOSにも搭載されているが、これはMac OS Xに標準搭載されるにあたって、1998年版のZapfinoに改良を加えたもの。2003年にリリースされたZapfino Extraはツァップさんと小林さんによって大幅にファミリーが拡張され、デザインもよりなめらかに再設計されている。

欧文書体を使いこなすには:より良いコミュニケーションのために

— 小林さんがLinotype・Monotypeで手がけた書体の多くはMonotype LETSで利用できますし、フォントワークス LETSではヨアヒムさん渾身の欧文スーパーファミリー、Yo Oneの提供が始まりました。日本でもこうした欧文書体をたくさん使ってもらいたいです。
 二人から、日本やアジア圏のデザイナーの皆さんに欧文書体を使ってもらう上で、課題に感じていることや、より良くしていけそうなことはありますか?

ヨアヒム まず、書体の違いを見分けるのに慣れていないという課題はあるでしょうね。私の母はセリフとサンセリフを見分けることはできますが、HelveticaとFrutigerの違いは分かりません。デザイナーでなく、ビジネスパーソンとして働いている兄弟たちは、ArialよりもCalibri、あるいはより現代的に見える書体を好むかもしれません。

 日本では至る所でHelveticaが使われています。何十年もデフォルトの書体になってしまっている。さまざまな書体を見て、違いを見分けることが重要です。よりアクセシブルなフォントはどのようなものか、どんなセリフが古い時代、あるいは新しい時代のものかなど、書体の説明を読んで、情報を受け取ることが理解の助けになるでしょう。「フォントかるた」も役に立つかもしれませんね。
 用法も知ってもらえるといいと思います。イタリック体をどんな時に使うか、4種類の数字(ライニング数字とオールドスタイル数字、それぞれに等幅とプロポーショナルがある)の使い分けなど……。

小林 ヨアヒムさんも言っていましたが、「その記号の使い方、違いますよ」ということはよくあります。これはデザイナーの役割が変化したのもあって、デジタル化以前は活字や写植で文字を扱うプロフェッショナルがいました。今はデザインの途中の工程も全てデザイナーがやることになり、記号や文字の扱いまでデザイナーが理解しなくてはいけなくなっています。例えば、ハイフン(-)とダーシ(–)の使い分けや、クォーテーションの使いどころとかね。

 私が日本のセミナーなどで欧文書体について語らせてもらうとき、必ず入れたいのは使い方なんです。「Monotypeは何万種類の欧文書体を持っています。使ってください」と言われても、「なぜそんなにあるの? どうやって使い分けるの?」となる。
 文字やフォントというのは、コミュニケーションのための道具だと思っています。きちんと伝わるためには、伝えたいことに合わせた道具の使い方を知っていただくことが大事です。フォントを作っているメーカーとして、その使い方も周知させていきたいと考えています。

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