企業事例から学ぶ、ブランド創り:三井物産株式会社
今回は、ブランディングにおける重要な要素であるコーポレートフォントについて事例とともにお話します。
2023年、三井物産株式会社、クリエイティブディレクター佐藤可士和氏から依頼を受けてMonotypeは欧文フォントの制作を行いました。
三井物産株式会社は、 2014年から企業理念をグローバルに浸透させる三井物産ブランド・プロジェクトに取り組んでいます。コーポレートフォントの制作はこのプロジェクトの一環で、刷新されたロゴの印象からかけ離れず、しかも文章を組んで読みやすいフォントになるよう制作が進められました。
課題:ロゴがもつブランドメッセージとは?
世界中でビジネス展開する上で、三井物産ではウェブサイト、会社案内、プレゼンテーション、名刺などさまざまな状況において欧文書体で表記されたコミュニケーションが求められます。三井物産のロゴがもつブランドメッセージを欧文書体からも同じように発信できるようにと、佐藤可士和氏とMonotypeのスタジオチームが協力し、欧文カスタムフォントの開発が始まりました。
解決:近代的で明るい表情を文字に表す
書体は個性を持っています。カスタマイズデザインを提案する際は、書体から受ける印象はキーワードを通して具体化し、開発の方向性を確認しあう作業から入ります。ここで重要となるのは、ロゴが表現する「近代的で明るい表情」を、文字に表していくことです。文字の幅や曲線、エックスハイト(小文字の高さ)を調節することで、文字の個性の引き出し方が異なってきます(図1)。
また、文字一つ一つの印象に加えて、文章という文字の塊になった時の印象も重要です。デザインチームは文章を読む人がどんなブランド体験をするのかを具体的に提案します。 ここでは、親しみやすさの中にもロゴのもつインパクト感を持ち合わせる Option 2-2が選ばれました(図2)。
Option 2-2は大文字、数字に対して小文字が大きく設定してあるため、長い文章でも読みやすくなります。また、全体が明るくなり、親しみやすさに繋がります。さらに進んだ段階のサンプルでは、アルファベット、数字、&(アンパーサンド)などの記号を制作するための提案が出されました。ロゴのデザインがもつメッセージ性を踏襲しつつ、可読性を保つ文字のバリエーションを追求していきます。
小文字l(エル)のバリエーションについても丁寧な意識のすり合わせが行われました。バリエーションAのほうは縦棒のみ、バリエーションBのほうはフックのついたデザインが提示されましたが、ここで選ばれたのはバリエーションAでした(図3)
「このフックのついたl(エル)は、トレンドとしてだんだん増えていることから試作に入れてみました。今回の書体では大文字 I(アイ)の上下にセリフがあるために混同される恐れは少ないということで、フックのついていないl(エル)が採用されました。最近の流行を意識しつつも、企業ブランドの本質がロゴに表現されています。文字デザインがぶれることなく、基本に立ち戻ることができる井桁三のロゴの存在は非常に大きいです。」と、クリエイティブ・タイプディレクターの小林章は述べます。
結果:世界で共通したブランドイメージを
完成したオリジナルの欧文書体はMitsui and Co Sansと名付けられました。近代的で明るい表情をもち、Regular、Italic、Bold、Bold Italicの4スタイルから構成されています。これにより、ウェブサイト、プレゼンテーション、名刺の文字組みに必要な実用的な書体が揃いました。イタリック体の使い方についてはいくつかルールがあり、語句の強調、外来語の表記、書籍や演劇または映画のタイトル、音楽や芸術作品名、船舶や機関車につけられた名前などを示すのに使われます。文字自体が表現するという意味では、世界とコミュニケーションする際に重要不可欠な要素です。
「三井物産では、現場の社員一人ひとりがブランドの体現者として顧客に、社会に、パートナーに、『ブランドのあるべき姿』を発信すると掲げています。彼らが日常的に触れている文字を通して、社員がブランド体験し、その体験をさらに社内そして社会のみなさまに発信できることはすばらしいことです。」と三井物産、広報部コーポレートブランディング室長の津田圭吾氏は述べます。
Mitsui and Co Sans が加わったことで視覚的表現が豊かになった三井物産ブランドは、これからも全世界に向けて発信し続けられるでしょう。