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アンティークでモダンなゴシック体! アートディレクター モリケントさんと「筑紫AMゴシック」の魅力を語る

みなさんはじめまして。フォントワークスnote編集部のフォンテーヌと申します。わたし、常々フォントを使ってくださる皆さんはどんなところに魅力を感じてくれるんだろう……と考えておりました。もっとフォントを使う人たちと語らいたい! 皆さんのフォント愛についてうかがいたい!

そんななかnoteを始めるという話を聞きつけまして「これはチャーーーンス!」と、この連載「今月の、フォント推し話!」を担当させていただくことになりました。これからさまざまな分野で活躍されているデザイナーのみなさんをお招きして、推せる書体を取り上げながら、フォントLOVEなお話をたくさん聞いていきたいと思います。

記念すべき第1回に取り上げるフォントは、書体デザイナー 藤田重信さんによる筑紫書体シリーズの最新作、「筑紫AMゴシック」! 手書きのニュアンスを持つアンティーク(Antique)な骨格を、幾何学的なエレメントでモダン(Modern)にまとめたゴシック体で、欧文書体の定番「Futura」に合う日本語書体として制作されました。

ゲストに、書体リリース前から筑紫AMゴシックを活用してくださっている(!?)アートディレクターのモリケントさんをお迎えして、この書体の魅力について語り合っていきたいと思います!


今月のフォント「筑紫AMゴシック」


〈ゲストプロフィール〉
モリケント
MORYARTI inc. 代表
Art Director / UX Storyteller
web、紙、MV、ゲームなど 様々な広告、デザイン媒体に縛られないシームレスで総合的なアートディレクション/デザインを広く手がける。企画と細部を詰めたVI、インタラクティブ体験を重要視したUX/UI設計を得意とする。

ジオメトリック・サンセリフの特徴を持つひらがな

フォンテーヌ 今日はモリさんと筑紫AMゴシックの魅力についてお話をしていきたいと思っています。よろしくお願いします!

モリ よろしくお願いします。

フォンテーヌ モリさんには、筑紫AMゴシック特設ページのディレクションや、上でご紹介したプロモーションビデオも制作していただいています。モリさんが筑紫AMゴシックを知ったきっかけはなんですか?

モリ デザイナーの藤田重信さんが、Futuraをベースにした日本語書体を作っているとツイートしているのを見たのがきっかけでした。僕は藤田さんのファンなので、普段からSNSにも注目していて。

フォンテーヌ 藤田さんはTwitterで書体の制作過程を公開されたりしていますもんね。「やばい書体がくるぞ……!」みたいな感じ、ありましたか?

モリ そうですね。まずは形が独特で、ゴシック体でありながら、明朝にも近いような要素が取り入れられているのを感じました。
 僕は筑紫ファミリーのアンティーク書体がめちゃくちゃ好きで、いろんな仕事で使っています。欧文の形も良くて、例えば小説家・佐野徹夜さんが主宰する創作チーム「兀兀(こつこつ)」のWebサイトをデザインしたときは、縦に配置する欧文メニューに「筑紫アンティークLゴシック」を使用しました。

モリさんが手がけた「兀兀」のWebサイト。項目ごとのタイトルに筑紫アンティークLゴシックが使用されている

 筑紫ファミリーは、「筑紫アンティークゴシック・明朝」や「筑紫Q明朝」など、さまざまな書体がリリースされていますし、常に気になる存在です。なかでも筑紫AMゴシックの制作を知った時はワクワクしましたね。

フォンテーヌ 筑紫AMゴシックの「AM」はアンティーク(A)でモダン(M)という意味で名付けられたそうです。モリさんはどんな印象をお持ちですか?

モリ ほかのゴシック体にはない特徴がある書体だと思います。たとえば、ひらがなの形に欧文のサンセリフ体のようなディテールが取り入れられていますよね。「る・ろ」とかを見ると顕著ですけど、「め」も下のカーブが尖っていたりするし。
 ひらがなって手の流れに沿って書くのが基本だと思いますが、筑紫AMゴシックは流れをそのまま形にしているわけではなくて、一つ一つの文字が幾何学的なバランスを取って作られているのが面白いです。

フォンテーヌ わたしが最初に見て驚いたのは「ね・れ・わ」かな……。普通に「ね・れ・わ」と読めるんですけど、よく見るとパーツが別れているんですよね。文字の流れと図形っぽいエレメントの間で絶妙な調整をされているんだなと感じます。

モリ 改めてじっと見ていると「ね」が「ぬ」のようにも見えてくるし、だんだんゲシュタルト崩壊してくる(笑)。ちょっと象形文字みたいでもありますね。


角の“トガり”からこだわりを想像する

モリ 筑紫AMゴシックは、「なんでこんな形なんだろう?」と考えるのが楽しい書体だと思います。欧文も面白くて、僕は特に小文字の「e」が気になりますね。横画が水平じゃなくちょっと上向きになっていて、15世紀のヴェネチアン・ローマン体のような形なんですよ。

フォンテーヌ 日本語と組み合わせた時のバランスも考えられている気がします。ジオメトリックで抜けがいい一方で、Futuraのぐいぐい前に出てくる強さとはまた違う、控えめな感じもあって。

モリ 過去に藤田さんが制作中の「e」をTwitterに上げていて、「どっちがいいかな」ってつぶやいていたんですけど、やっぱり斜めに上がっている方が藤田さんとしてはしっくりきたんでしょうね。

フォンテーヌ SNSでのリアクションも、結構参考にされているんじゃないかと思います。筑紫AMゴシックの開発がスタートしたのは5年前くらいなのですが、きっかけは藤田さんが試作した文字をSNSにアップしたとき、反応がよかったからだって聞きました。
 書体全体の印象としては、ふところがキュッと絞られていて、はらいがドレスの裾のように広がっていたり、動きがあって優雅な感じがします。

モリ そうですね。きらびやかな感じというか。あと、藤田さんはコンピュータ上でデザインされているので、文字の形にデジタルならではというか、ベジェ曲線で描くからこそ生まれるエッジがあると思います。
 僕も自分で書体を作ることがあるのでデザインする側の気持ちを想像してしまうんですけど、今後ウェイトを増やしていくとしたら、さっき挙げたひらがなの鋭角な部分とかは削れてしまうのかな、それは嫌だな……とか考えちゃいますね。

フォンテーヌ Futuraも太いウェイトだと、「A」や「M」の特徴的なピンとした角が削れているんですよね。特設サイトのインタビューをした担当者に聞いたら、藤田さんは筑紫AMゴシックの角、カットしたくないと話されていたそうです。

モリ その気持ち、わかります。自分がかっこいいと納得できる書体が、同じ形のままファミリーとしてウェイトを増やしても成立させられるのかどうかは、書体デザインの難しいところだなと思います。


恋心を伝えるのにぴったりの書体?

フォンテーヌ モリさんが制作された事例をもとに、さらに筑紫AMゴシックの使いどころをうかがいたいです。最速で世に出た事例のひとつが「『はじめての』直木賞作家4名 × YOASOBI コラボプロジェクト」のトレーラー映像でした。

「『はじめての』直木賞作家4名 × YOASOBI コラボプロジェクト」のトレーラー映像から、森絵都『ヒカリノタネ』の一節

モリ 「これは筑紫AMゴシックじゃないとだめだ」と感じて、リリース前にもかかわらず使わせてもらいました(笑)。
 このプロジェクトでは、「はじめて〇〇したときに読む物語」をテーマに、直木賞作家である島本理生さん、辻村深月さん、宮部みゆきさん、森絵都さんの4人がそれぞれ小説を書いて、YOASOBIがそれに合わせて楽曲を書き下ろしています。僕はトレーラー映像のデザインを担当していて、4人の小説に合う書体を選んで表現しました。

 筑紫AMゴシックは「はじめて告白したときに読む物語」として書かれた森絵都さんの『ヒカリノタネ』の書体として使用しているんですが、この作品に感じる青春っぽさが、フォントのイメージと合っているなと感じたんです。洗練された恋愛ではなくて、ちょっともどかしさがある高校生の恋というか、恋文の甘酸っぱい感じを表現できるのは、筑紫AMゴシックしかないと思ったんですよね。

フォンテーヌ 映像から青春らしい恋愛というか、はずむようなフレッシュさを感じました。

モリ 映像内で使用している「恋愛」や「アイラブユー」という言葉は、藤田さん自身も組み見本を作られていたんです。そのイメージもあって、この物語の恋愛要素とフィットするんじゃないかなと考えました。

フォンテーヌ モリさんたちのチーム、MORYARTIで制作された筑紫AMゴシックの特設サイトでは、街の中でフォントが使われているイメージがたくさん展開されていますね。このアイデアはどのように生まれたんですか?

モリ 特徴的な書体なので、文字だけを見せるサイトだと「かわいい」という印象で終わってしまうかもしれないなと思ったんです。なので、デジタルサイネージや屋外広告など、さまざまな媒体に筑紫AMゴシックを載せることで、「こういう使い方もできるんだ」と思ってもらい、見る人の創造性をサポートできるページになればと考えました。

フォンテーヌ 神社にある手水の看板の例は意外なほどマッチしてるなと思いました。

モリ 不思議となじむんですよね。僕も気に入っています。他に、藤田さんが「老」という漢字が面白いって言っていたこともあり、装丁の例としてヘミングウェイの『老人と海』を組んでみました。文字以外のグラフィック要素はあまり入れずに、書体自体の味わいを楽しんでもらうようにデザインにしています。
 あとは、森絵都さんの書体として使用した時のイメージが強かったので、「恋」の文字は使いたいなと思いましたね。

フォンテーヌ この「初恋」の文字組み、すごくいい! 「恋」にも含まれる「心」の形、藤田さんは「バウムクーヘンをカットして並べた形」と話していたらしいです。こうして使用例を見ていても、使うのが楽しくなる書体だな〜って思います。

モリ 筑紫AMゴシックは、気持ちに寄り添ったテキストや、世界観を表現する言葉に使うと映える書体だと思います。文字自体に柔らかさがあるので、Webサイトのステートメントなどでも、相手に寄り添う気持ちが表現できるんじゃないかなと。

フォンテーヌ 真面目なんだけど、固さよりはワクワクするような気持ちがそこに宿るような。

モリ そうですね。あとはやっぱり、恋文を書くときに使ってほしいって思います。この書体で気持ちを伝えてほしいな。告白の文章や、思いをしたためるテキストを書くとき、この書体で文字を打てば、きっと気持ちが盛り上がると思います。

フォンテーヌ フォントLOVEを語る連載の第1回にぴったりの書体でしたね(笑)。今回の推しフォント、筑紫AMゴシックの魅力をたっぷり語り合えた気がします。モリさん、ありがとうございました!

(構成:フォントワークスnote編集部/文:堀合俊博)


筑紫AMゴシックが使えるサービス

フォントワークス LETS
年間定額制のデスクトップフォントの配信サービス。筑紫書体、UDフォントなど高品位でバラエティ豊かなフォントを提供しています。

FONTPLUS
バラエティ豊かなプロ向けのフォントが使えるWebフォント・サービス。豊富な欧文・和文フォントをWebフォントとして利用することができます。


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