「学生向けLETS」を活用しよう:フォントワークス×ViViViT タイポグラフィコンペ大賞受賞者 岩井基記さんインタビュー
広告、アニメ、ゲーム、パッケージなど多くのクリエイティブの現場で使われている年間定額制フォントサービス「LETS」。プロのクリエイターたちが使用する「通常版LETS」は49,500円(税込)ですが、「学生向けLETS」という年額 990円(税込)のサービスがあるのはご存知でしょうか?
これは、クリエイターを目指す学生(小中学生から、さらには教職員の方も!)を応援するサービスで、通常版の「LETS」と同じ機能が、このお値段でご利用いただけます。
※教育目的のため、通常版「LETS」と異なり、商用利用はできませんのでご注意ください。
昨年の7月に登場した「学生向けLETS」。リリースと同時にデザインを学ぶ学生の就職を応援するViViViTとコラボレーションし、フォントワークス×ViViViT「学生タイポグラフィコンペ」を昨年開催しました。
*参考記事:学生限定!『タイポグラフィ・アワード 』結果発表(もじがたり掲載 2021.10.04)
今回は、コンペで大賞を受賞した東京工科大学 メディア学部3年生 岩井基記さんのインタビューをお届けします。受賞作品について、そして次世代のクリエイターが、どんなきっかけでフォントに興味を持ったのかなどをお聞きしました。
独学のPV制作から知ったフォントの魅力
― 岩井さんご自身について教えてください。
埼玉生まれ埼玉育ちの21歳です。小中学校の頃は物理学や宇宙論など理系分野に関心があり、高校では粒子加速器の研究開発に取り組んでいました。ただその時所属していた放送部で映像やデザインに触れたことがきっかけでクリエイティブへの道にシフトし、現在は東京工科大学のメディア学部にて、コンテンツ・情報技術・社会という三軸からメディアを幅広い視点で学んでいます。
― グラフィックデザインや映像制作への興味は、高校の放送部がきっかけだったんですね。どうして放送部に入部しようと思ったのですか?
先輩からの勧誘がきっかけで、本当に偶然入りました。はじめのうちは何となく過ごしていましたが、折角環境が整っているのに何も動かないのは勿体ないと思い、高校2年の夏に学校紹介のPVを制作することにしました。
― 初めてのPV制作はどうでしたか?
先輩に教えてもらったり、あとはもうネットで調べて独学で。試行錯誤の末に完成しました。そのPVが教員陣にすごく評価してもらえたのを皮切りに、放送部の組織の価値や知名度の向上を目指して映像制作に励むようになりました。
のちにAfter EffectsやIllustrator などを使い、よりクリエイティブな映像制作や、放送部のブランディングのためにロゴやポスター制作をするうちに、グラフィックデザインの領域にも無意識に踏み込んでいました。こうした結果、放送部は大きな実績と成長を生み、何より人のために作って喜んでもらえた成功体験が強く、モノづくりを続けたいと思うようになりました。
― いつからフォントを意識するようになったのでしょうか。
PVが作り終わった頃に、映像のクオリティや表現力にはフォントの選択も大きく関わってくることに気づきました。調べていくうちにフリーフォントの存在を知り、それから毎日ひたすらフリーフォントを掘っていき、どんどんフォントの世界にハマっていくことになりました。
― 昨年のコンペに応募したきっかけを教えてください。
正直にいえば、参加賞欲しさでした(笑)。
大学に入ってからフォントワークスの「学生LETS」(現在は新規受付を終了しているリニューアル前のサービス)を知って即加入していました。ちょうどサービスがリニューアルされる際、旧4年契約を切って更新しようか悩んでいて、そんな折に「参加すれば新しい学生LETSが一年使える」という本アワードの存在をTwitterで偶然知り、「何か作品作って出せば得じゃん!」という軽い気持ちで参加しました。
もちろんしっかり考えて作った自信作ですが、動機が動機なので大賞のご連絡を受けた時には驚きのあまり言葉を失いました。人生何が起こるか分からないものです。
47種のフォントで表現した日本地図
― 47都道府県をそれぞれフォントで表現するというのは、フォントワークスのフォントを知らないとなかなか難しいと思いますが、実際制作されてみていかがでしたか?
そもそもこの作品のアイデア自体、フォントワークスのさまざまなフォントを「学生LETS」で触れていたからこそ、思い付いたものです。
LETSならではのフォントの充実さと、元から伝えたかったフォントの持つ多様なメッセージ性。今回の趣旨に沿ってこれらをアピールするなら、いっそたくさんのフォントを使いまくろうという企画力一本で勝負しました。そこからフォントの多様性→日本列島という着想を得て、「もじで旅する地図」に落とし込んだのが本作です。
制作した感想としては、非常に大変でしたが楽しくノリノリで作れたと思います。実際に手を動かしたのは締切ギリギリの6時間程度で、地理には疎い上にデザインに凝る余裕もなく慌てていました。
ただ、片っ端から都道府県を調べてフォントと結びつける作業は、私が普段使わずに目を向けなかったフォントとの出会いの時間でもありました。知らなかったフォントの良さを再発見し、どんな地域に合うかを想像することが、とても面白かったです。
もっとも、最後の方はフォントが限られてきて自ら首を締める思いでしたが……。無事47都道府県それぞれにフォントを選んで完成できたのは、日頃から多くのフォントに触れて親しんできた経験が生きた故だと思っています。
― 各都道府県のどんな要素から、表現するフォントを選びましたか?
いくつか例を挙げて教えてください。
分かりやすいものから変わった選び方まで色々です。
中でも一番気に入っているのは、福井県(ふくい)の「コミックミステリ」です。気候の面では豪雪地帯もある冬の寒さと、地理的には若狭湾と呼ばれる尾ひれのようなリアス海岸の2つの要素を考慮しました。
ちょっと意外なフォントかもしれませんが、寒さに震える様子とギザギザとした海岸を表す書体として、コミックミステリの凹凸感とおどろおどろしさが案外合いそうだと思い選びました。
このように本来の書体のイメージを一旦排して新しい見方で選んだものもあります。
鹿児島県(かごしま)は、「ドットゴシック 12」を使用しました。
鹿児島県は火山灰に覆われたシラス台地が有名で、錦江湾には火山島である桜島があります。この火山のイメージを落とし込むのに合ったフォントはなかなかなかったのですが、火山灰の細かい粒を考えたときにドットゴシックがぴったりだと思い付きました。字が小さすぎてドット感が消えたのが無念ですが、一番奇想天外な思い付き方だったので印象深いです。
こうした制作の裏側や解説については、その後に行われた大学の有志発表会にてプレゼンテーションを行い、LETSもしっかり宣伝しました(笑)。
― コンペの副賞として「通常版フォントワークスLETS」を1年間提供させていただきました。その後も「LETS」は活用されていますか?
LETSはほぼ毎日、ずっと愛用しています。ただし商用利用などはせず、元から学生版LETSを使っていたのと変わらない使い方なので、あまり使いこなせていない気持ちもありますが……。
やはり一番の変化というのは、作品を意図した通りに表現でき、表情が豊かになったことでしょうか。特に「筑紫A丸ゴシック」との出会いは大きかったです。
― なんと! それは光栄です。筑紫A丸ゴシックとの出会いを教えてください。
高校生の頃、SNSで初めて見たときに、思わず「かわいい……」と口にしていたほど、上品さと可愛らしさが融合した暖かいフォントで、丸ゴシック体の常識を覆すような書体だと感じて、一度目にしてから頭から離れませんでした。
― 周りにもフォントやLETSの魅力を伝えてくださっているんですよね。とても嬉しいです。
大学のデザイン学部の人も案外フォント関連のサービスを知っている人は少なくて。フォントの良さや価値を広めていく活動をもっとしていきたいと思っています。
私は特別モノづくりに長けてはいませんし、熱く語っている割に書体の知識は初歩的です。フォントマニアでもなく専門家でもなく、一般のユーザーです。だからこそ、難しくなく素直な形でフォントの面白さや楽しさを伝えることもできるのではないか、とも思います。
一度フォントの存在に気づけば、もっと知りたくなったり使いたくなったりする。そんな一つの気づきを与えられるように、何か発信したりできないか考え中です。
― 岩井さん視点でのフォントの発信楽しみです! 次世代のクリエイターのお話を聞けて、とても刺激を受けました。ありがとうございます。