ゼロから学ぶ「フォントのしくみ」②:文字のかたちに関わる用語「字形と字体/正字と異体字」
フォント開発のエキスパート「ぬし」のもとに配属された、新入社員のケンさん。フォントをしっかり理解するには、まず「文字とはどういうものか」から学ぶべし! と、ぬしの研修がスタートしました。
ゼロから学ぶ「フォントのしくみ」第2回では、文字の“かたち”に関わる基本的な用語について考えます。
文字のかたちを示す言葉/字形と字体
ケン フォントの解説を読んでいると知らない用語が結構あって……いつも雰囲気でなんとなく分かったつもりになっています。
ぬし なるほどなるほど。ではデザイナーの皆さんがよく使う「書体」という言葉について説明できますか?
ケン 明朝体とかゴシック体とか……文字のスタイルのこと、でしょうか。
ぬし JISで定義されているフォント情報処理用語では、次のように記されています。デザイナーが「この書体は」と言うときは、そのデザインについて語っているということになりますね。
ぬし フォントを理解するためには『文字』『デザイン』『ソフトウェア』の3方向から理解することが大事です。「書体」は意匠のことですから、デザインに関わる用語だと私は考えています。
一方で、文字に関わる用語の中にも「字形」と「字体」という言葉があります。この違いは分かりますか?
ケン どちらも“文字のかたち”を表す言葉ですよね。違い……?
ぬし JISの定義によると、次のように書かれています。
ケン うう、日本語が難しいです。字形は文字全般に、字体は漢字だけに使う言葉なのは読み取れました。
ぬし 大事な点は、「この文字の字形は」と言うときにはその文字の全ての形状を指すのに対して、「この文字の字体は」と言うときにはその文字の骨格を指すということですね。
これらの用語は、フォントの文字としての性能 —— つまり、”文字を正しく表示できる”かどうかに関わってきます。例えば、次はどちらも「亜」という漢字を別のフォントで表示しています。これは字形が違いますが、字体は同じです。
ぬし 一方で、下の例は同じフォントですが左側と右側で骨格が異なるのが分かります。したがって字体が違いますし、同時に字形も違います。
ケン 字形はその文字の全ての形状、字体は骨格……。字体が違うと、意味や読みが同じでも、別の文字として認識している感じがします。
ぬし ただし、そう分かりやすいものばかりではありません。例えば元号が変わったとき話題になった、令和の「令」。
ケン 骨格が違うように見えます。
ぬし 実はこれは、同じ字体です(*)。字形は違いますが。いろいろな漢字について、字体の違いを議論することは大変難しいことなのです。
JIS規格にもトレンドがある?/正字と異体字
ぬし 字体という言葉は漢字に対して使用する言葉でしたが、同じように漢字には「正字」と「異体字」という言葉もあります。JISでは次のように定義されています。
ケン 前の例で言うと「亜」が正字で、「亞」が異体字になりますか?
ぬし そうですね……。異体字という言葉を使用するために、その時代により規範とされるものを正字と呼んでいる、と考えるのがよさそうです。
JIS規格では、改訂ごとにいくつかの文字の字体が変わっています。現在の日本語においては「JIS X 0213:2004」の字体を正字と呼んでいいのではないでしょうか。
ぬし ちなみにフォントワークスでは、「JIS X 0208:1990」と「JIS X 0213:2004」に準拠したフォントを販売しています。ですが、どちらかを正字である、とはしていません。「JIS X 0208:1990」のフォントついては、その規格に沿った文字が正字になりますし、それ以外は異体字になります。もう片方も同様です(メーカーによっては、正字を決めていることもあります)。
ケン 同じ書体でも、「JIS X 0208:1990」と「JIS X 0213:2004」、どちらを採用しているかで文字の形が変わってしまうってことですよね。あらかじめ見分けるにはどうすれば……。
ぬし 文字セットが〈Std・Pro・Pr5・Pr6〉となっているフォントは「JIS X 0208:1990」、〈StdN・ProN・Pr5N・Pr6N〉のようにNがついているものは「JIS X 0213:2004」を採用しています。
LETSのWebサイトでフォント一覧を見てもらうと、文字セットごとに絞り込みもできますし、分かりやすいですよ。
ケン 文字セット? また知らない言葉が出てきました。
ぬし おっと、まだ説明していませんでした。では次回、フォントのエンジニアリングにおける最重要キーワード「文字セット」や「文字コード」について学んでみましょう。ちょっと難しくなりますよ。
ケン は、はい。頑張ります!