書体デザイナー 越智亜紀子さんが見つけた、素敵な「パルラムネ」&「パルレトロン」の事例を紹介!
フォントワークスnote編集部のフォンテーヌです。さまざまなデザイナーのみなさんと、フォントLOVEなお話をお届けする「今月の、フォント推し話!」。第3回は少し趣向を変えて、弊社の書体デザイナー、越智亜紀子さんをゲストにお招きしました。
越智さんは、人気デザイン書体「パルラムネ」や「パルレトロン」の生みの親。やっぱり自分が作った書体が使われているのを見かけると、「おっ」と目を向けてしまうそうです。そこで今回は、越智さんが見かけて印象に残ったデザイン事例を挙げていただきながら、パルラムネとパルレトロンについてお話しします。
「これが正解というのはなくて、自由な発想で書体を使ってもらえたら嬉しい」という越智さん。個性的でキャッチーな2つの書体、それぞれどんなところで活躍しているのでしょうか?
肩の力を抜いた、自然体なゆるさが魅力の「パルラムネ」
フォンテーヌ 越智さんはフォントワークスに入社されて何年目になるんでしたっけ。
越智 今年で11年目になります。気がついたらこんなに経っていました(笑)。
フォンテーヌ もうベテランですね! 今日は越智さんがデザインされたパルラムネとパルレトロンを取り上げます。このパルシリーズ、全体としてのコンセプトみたいなものはあるのでしょうか?
越智 「こんな路線にしよう」という考えはあまりなくて、私自身が楽しいと思えて、お客様にも楽しんで使っていただける書体を提供したいという想いでデザインしています。
フォンテーヌ ちなみに、“パル”の由来は?
越智 「パル(pal)」は、英語で「仲間」や「友達」を意味する言葉なんです。もともとはパルラムネも「ラムネ」でリリースするつもりだったんですが、書体デザイナーの藤田(重信)さんが、「筑紫書体のような、シリーズとしての冠名があった方が、お客様が覚えやすい」と話していて。今後シリーズの書体が増えていく中で、ファンになってくれる方が増えるといいなと思い、「これも仲間のひとつです」というのが伝わるように、このシリーズ名に決めました。
フォンテーヌ 書体名を見るだけで、越智さんがデザインしたことがわかりますね。では早速、パルラムネからお聞きしていきたいと思います。2017年にリリースされた越智さんの最初の書体です。
越智 はっきりとしたコンセプトはないのですが、ゆるくて、楽しそうなイメージでデザインした書体でした。骨格を少し崩して、極端に細いエレメントをつくることで、“今っぽさ”も感じる、ゆるい雰囲気を出しています。私自身はいつも元気いっぱいだったりするので、その気持ちをセーブしながら作っていました(笑)。
今月のフォント1「パルラムネ」
フォンテーヌ 確かに、肩の力が抜けたような感じがある書体だと思います。
越智 初めて書籍で大きく使われているのを見つけたのは、『子や孫にしばられない生き方』というエッセイでした。めちゃめちゃ嬉しくて、本屋さんで大急ぎで買ったのを覚えています。
最近見つけた意外な例だと、『不自由な脳―高次脳機能障害当事者に必要な支援』という医学書に使われていました。臨床心理士の方の専門的で真面目な本ですが、その分野に詳しくない読者にも、フラットな気持ちで手にとってもらいたいというときに、パルラムネが合っているのかなと思います。
フォンテーヌ 例えばこのタイトルが明朝体だったら、もっと「専門家のための本」という雰囲気になりそうですが、この装丁なら「私でも読めそうかも」と思えます。パルラムネは、ゆるいけど落ち着いたキッチリさも持っている、不思議なバランスの書体ですね。
越智 パルラムネは、縦画と横画をそれぞれしっかり垂直、水平にしているので、楽しくなりすぎず、かつ真面目すぎにもならないバランスが出ているのかなと思います。
また、最近食品にも使っていただけることも多くて、「たっぷりたまねぎポン酢」というドレッシングのパッケージは、文字だけで勝負という強気のデザインがすごいです。
フォンテーヌ インパクトがありますよね! 飾らない素(す)の素材らしさが伝わる感じがします。
越智 ご当地ゼリーのパッケージに使っていただいたこともあるので、素材を生かした表現にちょうどいいのかもしれないですね。あと、「あざとすぎない」のも特徴としてあるのかも。「私、可愛いでしょ?」という雰囲気がありつつ、あまり嫌味がないというか、遊び心を入れたい時に選んでいただけているのかなと想像しています。
フォンテーヌ 「品のいい脱力さが魅力」とおっしゃっていたデザイナーの方もいました。ゆるいけれど、子どもっぽくはない、品のある表現を試したい時に使ってくださっているのかなと思います。
越智 照れますね(笑)。そんなふうに選んでいただけているのは嬉しいです。
オタク心をくすぐる、西洋レトロな雰囲気の「パルレトロン」
フォンテーヌ 2019年にリリースされたパルシリーズ第2弾がパルレトロンです。パルレトロンは一目でわかる特徴的な書体ですね。
今月のフォント2「パルレトロン」
越智 おっしゃる通り、誰が見ても分かるみたいで、家族から「あなたの書体見つけたよ」って言われることも多いんですよ。
フォンテーヌ イメージのもとになったものはあるのでしょうか。
越智 はじめは、デザイナーの方からの「大正ロマンみたいな、レトロな書体をもっと増やしてほしい」というご要望がきっかけだったんです。フォントワークスのラインナップにそういった書体はあまりないですし、面白そうだなと思ったので。実際は大正ロマンの影のある雰囲気も参考にしながら、「西洋レトロ」寄りの、ゴスロリの雰囲気を取り入れた可愛い感じの書体を作ってみたいなと考えてデザインしました。
フォンテーヌ カタカナの「ロ」とか、四角いはずのところが五角形になっていたり、ひらがなの丸いカーブにもエッジがついていたり、骨格から個性的な書体です。どのようにデザインしていかれましたか?
越智 アニメや漫画が好きな人や、ゴシックロリータな世界観に憧れる人たちの、オタク心が弾むような形にしたいなと思ったんです。私もそういったものが大好きなので、剣のような形の縦線や、リボンみたいな強弱のある線は、自分自身が「こうした方が絶対楽しい!」とワクワクしながらデザインしていました。
フォンテーヌ 楽しんで作っている感じが書体から伝わってきます。実際に越智さんが見つけた印象的な事例、どんなものがありますか?
越智 リリースしてから間もない頃に、雑誌「MOE」の「不思議の国のアリス」特集の表紙で使っていただきました。童話の少し怖い雰囲気に合う使い方が素敵です。
フォンテーヌ 装飾的なフレームにもマッチしていますね。あと「不思議の国のアリス」というタイトル自体、パルレトロンの特徴がすごく伝わりやすい形をしているなと思いました。
越智 小鳥遊書房の江戸川乱歩 傑作集シリーズでは、帯で「筑紫Bヴィンテージ明朝」と合わせて使われているのが面白くて。レトロな感じをパルレトロンで出しつつ、筑紫Bヴィンテージ明朝の品の良さも感じられて素敵ですね。イラストの世界観とも合わせて選んでいただいたのかなと想像しています。
アニメの事例だと、『邪神ちゃんドロップキック’』1話オープニングで見つけました。少し不穏でダークな雰囲気を醸し出しているなと思います。
フォンテーヌ かわいいコメディ作品ですけど、1話冒頭の悪魔召喚シーンに合わせてパルレトロンを使われているんですね。最近はアニメのオープニング・エンディングのクレジットが凝っているというか、世界観に合わせたフォント選びをされているなと思うことが増えてきました。
越智 そうですね。印象が強いという意味では、『仮面ライダーセイバー』の次回予告で使ってくださっていたのも面白いなと思いました。画面に映るのは数秒だけですが、ぱっと見でも主張が強いので、それも選んでいただけている理由のひとつかもしれないですね。
シリーズ最新作は、パンみたいに“モコモコ”な書体?
フォンテーヌ 最後に、制作中の書体のお話も聞きたいです。パルシリーズの3作目「パルもこ」に取り組まれていると聞いていますが……。
越智 まさに絶賛制作中です。この書体を作ろうと思ったきっかけは、入社2、3年目の頃に、藤田さんが「文字を食い込ませる書体がまた流行りはじめているね」と話していたこと。最初はピンとこなかったんですが、そこからCDジャケットなどで使われているのを見るようになり、もこもこした雰囲気の文字が流行りはじめているのを感じています。
先ほどお話ししたように、パルラムネの制作ではゆるさを大事にして、元気になりすぎないようにデザインしていたんですが、制作の終盤ぐらいから逆に元気いっぱいの書体を作りたい気持ちが湧き上がってきて(笑)。パルもこはパンみたいにふっくらした、美味しそうな書体にしたいです。完成にはまだ時間がかかりそうですが、デザインしている側も陽気な気分になる書体なので、引き続き朗らかな気持ちで作っていきたいと思います。
フォンテーヌ うーん、見れば見るほど面白い書体ですね。期待して完成を待っています!
(構成:フォントワークスnote編集部/文:堀合俊博)
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