コミックス『ミステリと言う勿れ』タイトルロゴに見る、フォントのワザの魅せどころ!
魅力的なデザイン事例から、フォントの使い方のコツを学ぶ連載「フォントのワザの魅せどころ!」。今回紹介するのは、2022年1〜3月には菅田将暉さん主演でドラマ化もされた人気漫画『ミステリと言う勿れ』のタイトルロゴです。
ロゴのベースとなっているのは「筑紫アンティークLゴシック」。筆の動きを感じるプロポーションを生かしながら、ウェイトを絞ることでかすかな緊張感や繊細さが感じられるロゴに仕上がっています。実際にデザインされたベイブリッジ・スタジオの佐藤千恵さんに、フォント選びや制作のポイントをうかがいました。
主人公の「おしゃべり」でどんどん展開していく物語
田村由美さんによる漫画作品『ミステリと言う勿れ』、フジテレビのドラマをご覧になった方もいるかもしれません。もこふわヘアーと優れた洞察力を持つ主人公、久能整(くのう・ととのう)の周りでさまざまな事件が起こりますが、タイトルの通り、必ずしも事件の解決が話の主題ではなかったり……? もともと田村さんのファンで、作品をたくさん読んでいたというデザイナーの佐藤さんも、これまでとは毛色の異なる作品だと感じたと言います。
「扉絵が取調室から始まって“事件もの!?”とワクワクしながら読み進めると、閉鎖空間で整くんのおしゃべりを聞く(読む)だけなのに話はどんどん進んでいき、映画やドラマを観ているような感覚になりました。ロゴ制作については、最初は読み切り予定でしたので、上記内容から“ふわっ”としたイメージで進めました。堅すぎず、男性も女性もとっつきやすいものになればいいなと考えていました」
シルエットを決め手に選んだ、筑紫アンティークLゴシック
タイトルロゴのベースに選ばれた書体は「筑紫アンティークLゴシック」。筑紫書体には「筑紫ゴシック」や「筑紫オールドゴシック」などもありますが、筑紫アンティークゴシックはプロポーションの美しさにこだわって作られた角ゴシック体です。
「最初の印象で書体のシルエットがとても綺麗だなと感じました」と佐藤さん。「ゴシックでありながら、筆の動きを感じて、力強さと柔らかさを感じる書体だと思います。普通のゴシック体だと物足りないし、普通の明朝体だと少し堅い感じがして、もうちょっとクセがほしいと言った理由から選ばせていただきました」とのこと。筑紫書体シリーズはお気に入りでよく使ってくださっているそうで、メーカーである私たちもとても嬉しいです。
雑誌掲載時のタイトルロゴができるまで
筑紫アンティークLゴシック[B]は、そのままだと優美なプロポーションと落ち着いた力強さを持つ書体です。しかし『ミステリと言う勿れ』のタイトルロゴは、もっと儚げで繊細な印象です。雑誌掲載時のロゴをもとに、佐藤さんにその制作過程をうかがいました。
「もとの書体よりも繊細さがほしく、まずはウェイトを絞りました(①→②)。それから筆画をつなぐ細い線を加えて、太さの調整やにじみのような加工をしています(③→⑤)。
タイトルロゴ自体が単色だと寂しく、文字色を変えるとうるさく見えたのでその中間のバランスにしようと色の帯をポイントで入れました(⑤)。雑誌掲載時はロゴのみで使用すると他の文字要素が入ったときに弱く見えるので、しっかりと枠で囲ってロゴを目立たせるようにしています(⑥)」
こうして見るとフォントで組んだ状態からの変化が分かりやすいですね。ウェイトを絞ったことで、より書体の持つなめらかな骨格や、侘び寂びのような感覚があらわになったようにも思います。
「単行本は雑誌と違い、デザイン要素が“タイトル・巻数・作家名”とシンプルです。イラストや全体に散りばめられた文字を見せることを優先して、ロゴの囲み枠をなくし、できるだけイラストの邪魔にならないように配置しています」
筑紫アンティークLゴシックが使えるサービス
フォントワークス LETS
年間定額制のデスクトップフォントの配信サービス。筑紫書体、UDフォントなど高品位でバラエティ豊かなフォントを提供しています。
FONTPLUS
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