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クレディセゾンの歴史と文化を継承する、コーポレートフォント「SAISON Sans」誕生秘話

1980年代から「セゾンカード」で知られている株式会社クレディセゾン(以下クレディセゾン)。2030年に向けた目指す姿として「GLOBAL NEO FINANCE COMPANY ~金融をコアとしたグローバルな総合生活サービスグループ~」を掲げ、私たちの生活に広くアプローチする事業を展開しています。

当時から変わらぬ文化と、クレディセゾンの未来をつないでいくために、このたびコーポレートフォント「SAISON Sans」および「SAISON Sans Advance」をフォントワークスにて開発させていただきました。

新たなコーポレートフォントについては、SAISON Sans 特設サイトでも詳しくご覧いただけます。noteでは、今回のコーポレートフォント開発プロジェクトに携わられた、クレディセゾン ブランディング戦略部の山本尚毅さんと堀口晏奈さんをお招きして、SAISON Sans誕生の背景についてうかがいました。

(右から)フォントワークス営業 畑・クレディセゾン ブランディング戦略部 山本さん・クレディセゾン ブランディング戦略部 堀口さん・フォントワークス営業 亀田

コーポレートフォントプロジェクト発足の背景

――まずは、山本さん、堀口さんがどのような仕事に関わられているか、自己紹介をお願いします。

山本 私は2022年にデザイナーとして入社しました。当時は部署ごとにデザイナーがいたのですが、クレディセゾン全体を繋ぐようなチームは存在していませんでした。そのような状況の中、ブランディング戦略部からお声がけをいただき、インハウスデザインチームの立ち上げ業務に携わることになりました。
 ブランディング戦略部は、グループやグローバル、クレディセゾンの全てのブランドを統括する役割を担っています。私がデザイナーとして参画した当初は1人でしたが、公募や採用を経て、今年度にはデジタル関連の部門も合流し、今では12人のチームになりました。

堀口 私は接客やカードの営業をするセゾンカウンターの勤務からブランディング戦略部のデザイナーにキャリアチェンジしました。学生時代からデザインに興味があって、個人でも勉強していたところ、山本さんに拾っていただいて(笑)。今回のプロジェクトの他にはチラシやロゴなどの制作、チーム形成をどうしていくかなど、幅広い業務に携わっています。

――この2年間で、環境づくりも含めて新しいチャレンジをされているのですね。コーポレートフォントのプロジェクトはどのようにスタートしたのでしょうか。

左:セゾンカードロゴ(1983) 右:セゾンカードロゴ(2019)

山本 1983年に誕生した「セゾンカード」のロゴ、ブルーとグリーンの四角いロゴをボックスロゴと呼んでいるのですが、このデザインを手がけたのは昭和を代表するグラフィックデザイナー、田中一光さんです。その後「クレディセゾン」のボックスロゴも作成され、36年後の2019年に一度リニューアルされています。
 私の入社後、チームでロゴマークに対しての調査分析を重ねました。当社の長い歴史の中いくつもの新しいサービスが誕生し、その結果、さまざまな場面でこのロゴや書体が使用されているものの、どうやらすべてが同一のものではない、という結論に至りました。

 ――同じものではない、というのは?

山本 もともと田中一光さんによってデザインされたセゾン書体が、アルファベットの大文字のみ存在しています。特徴として「C」が2種類あるなど、文字によってバリエーションが見られます。はじめは、これらの文字がどのように使い分けられているのか、どのようなルールで書体が用いられているのかを、過去のロゴや広告を通じて検証しました。
 ところが、調べれば調べるほど、わずかに文字の形が異なるものが見つかり、どうしても合致しない部分が出てきたのです。田中一光さんのデザインが基になっているのは間違いないのですが、基準となるデータがどれなのかはっきりしませんでした。それならば、今後、グループやグローバルでの使用していくことを考慮しても、新たに基準となる書体をまとめ、フォントファイル化して全社で使用できるようにしていった方が良いのではないかという考えに至り、このプロジェクトが始動しました。
 

創業から受け継がれる“生活”へのまなざし

――コアとなる書体を新たに作る、ブランディングを再構築していくための足掛かりとなるようなプロジェクトだったのですね。

山本 そうですね。ブランディングの取り組みとして、フォントから始めるのは珍しいことかもしれません。
 クレディセゾンは、商品を売るのではなく、ライフスタイルを提案するという姿勢を根底に持っておりますが、そのために必要なのはやはりコミュニケーションです。文字はコミュニケーションを支える重要な要素であり、意識していなくても書体の印象は確実に伝わり、それは信頼につながります。だからこそ、早い段階で着手するべきだと考えました。

――セゾン書体の継承が大きなテーマとなっていますが、創業当初から現在に至るまで受け継がれているもの、たとえば文化や考え方のようなものはあるでしょうか。

山本 クレディセゾンは、多くの方からクレジットカードの会社だと認識されているかもしれませんが、実はもっと広い範囲で事業を展開しています。特に現在は、総合生活サービスグループとなることを目標に掲げて、国内でもグローバルでも、その場所で暮らす人々の生活全般に関わるような取り組みを進めています。
 そもそも、クレジットカードを利用する目的は何かと考えたとき、そこには「生活」があると考えています。モノを買うこと自体が目的ではなくて、その先で生活が豊かになり、幸せを実現するコト。生活やライフスタイルを重視する姿勢は、セゾンカードの創設当初から受け継がれている文化です。
 そして、生活を豊かにするための道具としてカードに求められるのは、第一に信頼だと考えます。信頼のおけない会社が発行するカードで、生活がより良くなるとは考えにくいですよね。細かい点かもしれませんが、カードの申込書ひとつ取っても、それがコミュニケーションの質に関わってきます。ロゴが一貫していることや、フォントが統一されていることで違和感や引っ掛かりを取り除いて、信頼感を高めていくことが、ブランディングとして必要なことだと考えています。

これからのセゾンを示す書体として

――当初のセゾン書体をどのようにSAISON Sansに継承していったかについては、特設サイトで詳しくご紹介しています。開発において特にこだわった点や、制作して良かったと感じる部分はありますか?

山本 SAISON Sans Advanceをご提案いただけたことは大きな意味があったと思います。当初は、セゾン書体をアップデートしたSAISON Sansだけを、3ウエイト展開で制作する予定でした。しかし、私たちが目指していたのは、先ほどお話ししたように、フォントを通じてより良いコミュニケーションを実現することです。
 セゾン書体はスタンダードで使いやすいジオメトリック・サンセリフですが、これからの社会において私たちのメッセージを発信していくのに最適かという点では、さまざまな可能性があるのではないかと考えました。別の可能性を模索する道をフォントワークスさんと話し合ったところ、書体デザイナーのヨアヒム・ミュラー・ランセイさんから、SAISON Sansと同じ骨格を持ちながら、わずかにコントラストが加わった“Advance”をご提案いただきました。クレディセゾンがこれから変わっていく、より生活の中に広がっていくことを想像したとき、とても納得感がある書体だと感じています。

上:SAION Sans 下:SAISON Sans Advance

――生活のためのサービスや取り組みも広く展開されているというお話でしたね。

山本 はい。事業創出や協創を含め、さまざまな生活者に向けたサービスが増えています。これからの新たな取り組みや、次の一歩を踏み出すような展開の中で、既存のセゾン書体を全てに使用すると、どうしてもまだまだクレジットカードの印象が色濃く残り、SAISON Sans Advanceを用いることで、サービスのメッセージがより伝わりやすくなると感じました。さまざまな可能性のある書体だと考えています。

――ヨアヒムさんとフォント開発のやり取りをする中で、印象に残っていることはありますか?

山本 最も印象的だったのは、ヨアヒムさんが「心から文字を愛している」と感じたことです。欧文書体に対する知見の広さはもちろんのこと、フィールドワークと照らし合わせながら、セゾン書体についても私たち以上に詳しく調べてくださいました。そのうえで、適切な答えを導き出してくれたという印象を受けました。
 実は、依頼当初は不安もありました。セゾン書体を整えることが目的だったため大きく逸脱することは避けたいと思う反面、新しい展開にも挑戦したいと思う気持ちもあり、非常に繊細なバランスが求められていました。そんな中で、完成したフォントを見たとき、まったく違和感を覚えなかったのです。細かな調整が施されていて、たしかに変化はあるものの、馴染み深いセゾンの書体だと感じられることに驚きを覚えました。
 提案のたびに、ヨアヒムさんから膨大な量の分析資料が送られてきました(笑)。検証したところや変更点について、ひとつひとつ丁寧な資料が添えられていて、それらには文面から伝わる人柄がありました。信頼できるコミュニケーションとはまさにこういうものだと感じました。

ヨアヒム・ミュラー・ランセイ のプレゼンテーション資料より
ヨアヒム・ミュラー・ランセイ のプレゼンテーション資料より

――最後に、コーポレートフォントが完成した感想を聞かせていただきたいです。

堀口 ヨアヒムさんから資料が届くたびに、まるでプレゼントを受け取るような気持ちで毎回楽しみにしていました。そのため、実際に使えるようになった瞬間はとても感動しました。オルタネート(異体字)で、クレディセゾンロゴの特徴である二重丸の「O(オー)」が表示できることは提案を通して理解していましたが、実際に体験すると、「これこそがクレディセゾンのフォントだ」という喜びと感動がありました。
 これまで欧文を入力する際に、セゾン書体に近いフォントを選んで使うこともありましたが、どこか違和感が残るものでした。書体が揃うことで一気にクレディセゾンらしさが感じられるようになり、とても嬉しく感じています。

山本 フォントワークスの皆さんはもちろん、クレディセゾン社内の協力もあり、多くの方々の力で素晴らしいコーポレートフォントが完成しました。とてもありがたく感じています。
 とはいえ、現在はまだ、セゾンのアイデンティティを時代に合わせ整理した段階に過ぎません。これからの目指す姿に向け、欧文だけでなく、和文の開発などの展開を含めて、まだまだやるべきことは残っています。グループ全体やグローバルも含めて一体になり、コーポレートフォントを通じて、当社の取り組みやブランドの変化が視覚的に伝わり、社内にも、生活者の皆さまにも広がっていくことを期待しています。

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