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報道番組のデザインに注目! ニュース画面のテロップと「テレ朝UD」

皆さん、「テレ朝UD」はご存知でしょうか? 

テレ朝UDは、テレビ朝日の長年の経験に基づくテレビテロップの知見と強いこだわりを、フォントワークスのフォント制作の技術で実現したオリジナルフォント。2022年10月から以下の報道番組のテロップに使用されています。

2022年10月からテロップに「テレ朝UD」を使用している報道番組

テレ朝UDの開発背景や、書体の特徴については、フォントワークスのコーポレートサイト「もじがたり」で紹介されていますので、ぜひそちらもチェックしてみてください。

そしてもじがたりの取材のため、テレビ朝日 コーポレートデザインセンターにお話を聞きに行くと耳に挟んだ編集部。これはじっとしていられません。「何か面白い話がうかがえそう!」と取材に同行させてもらいました。

テレビの現場の方にお話を聞けるなら、やはりデザインについて勉強させていただきたい! 「ニュースの画面ってどんなふうにデザインされてるの?」というギモンを中心に、報道番組のテロップや画面の見せ方についてお話を聞いてきました。

テレビ朝日 技術局 コーポレートデザインセンター
2011年に「美術制作センター」から改名。インハウスのデザイン部門として番組だけではなく、より広い範囲でテレビ朝日の手掛けるビジネスのデザインとブランディングに携わる。デザインだけでなく先端テクノロジー分野にも取り組み、VRスタジオやVFX、各種CGシステム開発も手掛けている。独自開発設計による「ANTS(Advanced Network Telop System)」では、オンラインによるテロップ発注ワークフローを開発・構築、テレビ局の中ではいち早く、紙発注からオンライン発注へ切り替えた実績を持つ。

〈お話をうかがった方々〉
福田隆之(ふくだ・たかゆき)さん
デザイン・アートディレクター。報道番組全体デザイン統括。
「グッド!モーニング」「サタデー・サンデーSTATION」「ワイド!スクランブル」担当。
原田甫(はらだ・はじめ)さん
デザイン・アートディレクター。「報道ステーション」「Jチャンネル」「モーニングショー」担当。
大松浩一郎(おおまつ・こういちろう)さん
テロップ開発・運用マネージャー。基幹系システム開発・管理部門から報道記者を経て現職。


伝わり方を考えた、番組ごとのデザインマニュアル

昨年10月から、テレビ朝日の主要な報道番組のテロップ書体が「テレ朝UD」に統一されました。複数の番組で一気に書体を変えるというのは、フォント制作に関わらせていただいたフォントワークスとしても驚きです。

テレビ朝日の福田隆之さんによると、オリジナルフォントの制作に着手する数年前から、コーポレートデザインセンターで報道番組のデザイン統一を進めていたといいます。
「すべての報道番組に対してデザイン運用マニュアルを作成しました。テレビ番組では、テレビ朝日に限らず、各局番組ごとのディレクターの責任で画面づくりをしていることが多いと思います。これまでデザイン側から統制を取っていくことはなかったので、勇気がいることではありました」(福田)

テレビ朝日全体で、報道番組のデザイン統一を進めた

マニュアルの一部を見せていただくと、番組ごとに色使いと使用フォント、文字の装飾や画面のレイアウトパターンが簡潔にまとめられています。

「番組ごとのキーカラーを決めて、1色だけでは情報伝達が成り立たないので、サブカラーをいくつか設定して……我々はカラーバンドと呼んでいるんですが、番組全体を見てこの配分で色を使ってもらうようにしています。例えば『スーパーJチャンネル』だと、セットに合わせて木のテクスチャが用意されていたりもしますね」(福田)

「スーパーJチャンネル」のカラーバンド

2020年ごろから、各番組でこうしたマニュアルに沿って画面づくりをされているとのこと。それ以前の画面と比較すると、たくさんの色を使って表示していたグラフや図なども色合いが整理され、要点が伝わりやすくなったと感じます。デザインを統一したのは「情報を伝えるときのストレスを減らすことも目的」と福田さん。
「きちんと色使いを設計していないと、画面に違う色がぽんと出てきたときに、無意識で意味を考えてしまう。デザイン面の働きかけで、そういう部分も減らしていけるだろうと考えました」(福田)

伝え方に統一感を持たせる一方で、番組ごとの個性もデザインに反映されています。例えば平日遅めの時間帯に放送される「報道ステーション」は、紺色と黄色のコントラスト、カチッとした四角いあしらいが印象的です。

「報道ステーション」のカラーバンド

「報道番組では角丸のデザインが採用されていることが多いですが、信頼感をしっかり出すことを考えて、あえて角を立てています。色も落ち着きや信頼を感じるイメージで設計しました。朝の番組にはこの配色だと暗すぎますね」と解説してくれたのは、福田さんと共に番組のデザインに取り組む原田甫さん。

そう言われてみると、朝のニュースは角丸でぱっと明るい印象の番組が多めです。角丸だと優しさや親しみやすさがあるということなのかな、と思っていたら「スマートフォンのUIのような今っぽさ」を意識しているという意外なお返事が。
「時代によっていろいろなデザインの手触りがあって、今はスマホやブラウザなど、画面のUIに角丸が多く採用されていますよね。そうした日常的に見るものの中に、テレビも仲間に入れてほしいという考え方でデザインしています」(福田)

生放送はチームワーク!! 報道番組のレイアウト

テロップに注目しながら報道番組を見てみると、思いのほかたくさんの文字情報が一度に表示されていることに気づきます。こうしたニュースの画面はどのようにデザインされているのでしょうか。

実際のニュース画面(スーパーJチャンネルより)
ニュースの基本的な画面レイアウト

「まず、画面はエリアごとに名前が決まっています」と説明してくださったのは、テロップやフリップを技術面から支えられている大松浩一郎さん。
「ニュースの画面は、同時に複数の場所へ情報を出しても重ならないように、あらかじめレイアウトが決まっています。例えば右上はサイドテロップといって、普通は2行で表示されることが多いですね。
 左上にはタイムスーパーや天気スーパー(*)が表示されます。地震が起きたときなど、生放送中に地図が表示されることがありますが、それは右下。急に情報が追加されたときにも重ならないようになっています」(大松)

画面に“間取り”が引かれているような感じなのですね。特に生放送が基本の報道番組では、リアルタイムであちこちのエリアが更新されていきます。一体どうやって……?と思っていると「これはチームワークなんですよ」と福田さん。

「ひとつの画面にレイヤーが10枚以上重なっていて、それぞれオペレーションが分かれていると考えてください。
 時刻や天気は画面に全ての情報を送り出すマスター室(主調整室)で乗せていたり、サイドテロップや説明テロップは、スタジオサブ(副調整室)で映像に合わせて切り替えています。VTRのテロップはあらかじめ編集ブースで焼き込まれているものもありますし、天気について解説するときは、お天気班のシステムから情報を出しています。他にもカメラマン全員の動きを把握しているスイッチャーなど、ニュースに関わるチームがお互いに息を合わせて放送を作り上げているんです」(福田)
 

なにげなく見ている画面が、これほどたくさんの人たちのコラボレーションで作り上げられていたとは! 新番組の立ち上げで大きくレイアウトを変えるようなときには、担当ごとの場所取り合戦になることもあるのだそうです。 

「一方で、テロップを入れすぎないようにとも言われます。番組の目的は文字を見せることではなくて、映像で伝えることなので、それがしっかり見せられるようにしてほしいということですね」(大松)

*スーパーとは、スーパーインポーズの略。テロップ同様に映像に重ねて表示される要素のこと。

“今”を伝える、テレビテロップのためのフォント

たくさんの情報を伝えなければいけない。しかし、文字を主張しすぎてもいけない。そうしたテロップで見せるための文字として開発されたのが「テレ朝UD」です。フォントに求められる要素も、テレビと紙媒体の広告やエディトリアルデザインでは少し違うといいます。 

テレ朝UDは「UD角ゴ_ラージ」をもとにカスタマイズされた書体ですが、特に大きく異なるのが「数字」です。テレ朝UDの数字は、フラットな均一さを持ち、インダストリアルな印象の形。本文用の日本語書体に含まれる数字としては珍しいスタイルだと思います。この数字、2003年に福田さん自身で作られたものがベースになっているそうです。

「テレビ朝日の番組だと気づいてもらえるように印象づけたかったのもありますし、テロップでは文章として美しくバランスが取れていること以上に、大事なことがあるんです」(福田) 

「テレ朝UDの数字は通常よりも天地が大きく、ウエイトも1段階くらい太く見えていると思います。テロップとして運用する上で、数字って目立ってほしい大事な情報のことが多いんですね。ですから、文章の中で少し強く見えることがポイントだったりします。SNSを通して反響を見ていると『ちょっと太い』とか『大きいんじゃないか』という意見も見られますが……はい、それは狙っているところなんです」(原田)

文章を読ませるのではなく、画面をぱっと見たときに伝わるような数字が採用されているのですね。また、仮名(ひらがな・カタカナ)にも変更が加えられています。UD角ゴ_ラージ自体、字面が大きく明瞭な設計ですが、テレ朝UDの仮名はさらにさっぱりと、明るく見えるように感じます。

 福田さんによると、さらに「『あ』や『も』の最後の“はらい”をもう少し短くして可愛らしさを出せないか」など、今風のディテールを探っているとのこと。そう、実はテレ朝UDは今後も継続的にアップデートされていく書体なのです。そんなテレ朝UDのコンセプト、テレビ朝日らしさを体現するワードは?と聞いてみると、「今」というキーワードが返ってきました。 

「これまでフォントって、一度完成したらアップデートされるものではなかったと思います。でも、今の世の中ってどんなサービスでも少しずつアップデートされていく。そうした中で、“今”の感覚がある書体というのを見渡してみたときに、これだと思えるものが見つからなかったので、一緒に作ってもらえませんかとお願いしたのが、テレ朝UDです」(福田)


アップデートされていくフォントに、報道番組全体を統一したデザインマニュアル。何百人というスタッフが関わる番組制作で、このような新しい動きを導入するのは簡単ではなさそうです。
「報道番組のディレクター全員に集まってもらって、デザインについて説明する機会をもらえたのが大きかったですね」と福田さん。実現できたのは、会社や報道局のトップからの強い後押しがあったためだといいます。

テレビ朝日の取り組みとしても、インターネットTVのABEMA NEWSや、テレビで放送されたニュースをYouTubeへも配信するなど、多様な視聴環境への対応を進めています。それぞれの番組の中だけでなく、報道番組全体で取り組んでいかなければならないという考えが背景にあるそうです。 

時代に合わせた報道があるように、時代に合った文字というのは、フォントワークスにとっても考え続けなければいけないテーマかもしれません。皆さんも、変化していく報道番組のデザイン、そして「テレ朝UD」の今後にも、ぜひ注目してください。

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